前にも書いたかもしれないけど
私は、小学校上がる前から8歳くらいまで
歌舞伎というものに度々連れて行かれた。
たぶん親の都合だったと思うんだけど、
そんな小さい子供に歌舞伎のなんたるかがわかるはずもなく、
私にとっては辛い時間だった。
ほとんどどんな演目を見たかも記憶に無いのだが、
ひとつだけ深く印象に残った舞台があった。
タイトルはもちろん知らないのだが、
良寛さんだか、一休さんだか、左甚五郎だかの子供の頃の話。
お寺の小坊主だった主人公(勘九郎)は、いたずらが過ぎて
納屋に縄でしばりつけられてしまった。
泣いても誰も来てくれない。
ついにはおしっこをもらしてしまう。
しかし、主人公は反省しないばかりか、
そのおしっこで地面にネズミの絵なんぞを書いたりする。
するとなんと、そのネズミが動きだすではないか。
そのネズミがあまりにうまく描けていたので、命を持って動き出したのだった。
そのネズミは、小坊主をしばりつけていた縄をかじり、彼を自由にしてくれた。
というような話だったと思う。
おしっこで絵を描くという所と、描いたネズミが動き出すという
ウソのようなウソの話が子供心に衝撃だった。
そして、その舞台が今でも忘れられないほど印象に残った最も大きな理由は
一生懸命熱演している勘九郎と、衝撃を受けて口を空けて見ていた私とが
同い年だと母に教えられた事だった。
長じてからはちっとも歌舞伎なんて見に行かなくなっちゃったけど、
勘九郎はやっぱり私にとって特別な役者、感慨深いな。